住宅と木材 2008年6月号掲載

■ 森からの家づくりを目指して
(株)小野建築研究所


1.はじめに


この度、これまでの活動が評価され、「住宅・木材振興奨励賞」を受賞した。これもひとえに社員はもとより、活動を支えてくれたネットワークの会員、市民サポーターの皆様のお陰と深く感謝している。この受賞はこれから続く若い人達の大きな目標と励みになると思う。



2.小野建築研究所の概要と事業構造


当社の木材に関わる主な活動は、図1を見るとおり、平成8年「秋田すまい塾」の設立に始まる。当時、バブル経済が破綻し、建設業界は需要の低下に伴い、建設価格が下落し、厳しい経営環境にさらされた。地方の零細な専門業者に至っては、元請の価格競争の影響を受け、絶え間ない厳しい差し値と出口の見えない将来への不安に希望を失いかけていた。

このような状況下で、これまで親交のあった専門業者16社が集まり、これまでの業界の課題を整理して、1年間に及び議論した。

そして、施主と直接契約するCM方式に踏み出した。コストの透明化と縮減、これまで不透明であった専門業者への発注プロセスの透明化、施主に対しすべてオープンとなり、施主と専門業者が互いに顔の見える仕事につながった。

CM方式による受注も拡大され、住宅に限らず民間の大型工事や国土交通省のCM方式導入調査研究会のモデル調査で障害者福祉施設も実施し、さらに秋田わか杉国体の総合体育館もCM方式で実施した。

今後も原点を忘れず、森林・林業の再生を深く追い求めていく。




3.活動の内容


3−1 CM方式による木材の分離発注

CM方式を導入して10年経過し、新築住宅80件、リフォームは140件を超える依頼を受けた。すべてCM方式で実施し、顔の見える仕事をモットーに、木材も分離発注で行った。

これまでの一括発注のような過度な差し値でなく、適正な価格での木材を発注しているので、業界にとって成果は大きいと思う。

特に、秋田県の事業でも試行的に木材の分離発注が行われていることから、今後に期待がもてるであろう。


3−2 「秋田杉で街づくり」ネットワークの活動

平成12年、秋田県の地産地消推進事業がスタートし、ユーザー、木材、建設、設計、それぞれの団体企業にアンケート調査を実施したところ、予想以上に地元木材に対する認識の低さに驚かされた。

このことが契機となって、平成13年、森からの家づくりを目指して「秋田杉で街づくり」ネットワークが設立された。以来、現在まで30名の会員と、市民のサポーター32名と森林体験を通じて森の理解と知識を深める啓発活動を行い、地域材活用を促している。さらに食の地産地消運動を実施している。

秋田市民生協と業務提携し、組合員へチラシを配布して、住まいの地産地消を訴え、秋田スギでの家づくりを提案している。森林体験も一緒に行い、森を取り囲む連携が大きな輪になりつつある。


3−3 木材に関わる構造改革特区提案
秋田スギ利活用推進特区=老人施設の木造化

平成10年、木材産業、建設業界、行政が集まり「秋田スギ利活用を考える会」を設立し、秋田県が抱える課題である木材資源の需要拡大の方策と、急速に進む高齢化社会における老人施設の木造化の可能性に着目した。厚生労働省の設置基準に対してかなりハードルの高い提案であったが、行政関係者の熱意と協力に支えられ認定された。

平成17年には、特区第一号として有料老人ホーム「ケアホーム木精」が完成し、現在は全国展開が認められ、全国各地で木造の老人施設ができている。


3−4 地域産材活用推進特区
(木材の随意契約の要件拡大)

この特区申請は、秋田スギ利活用推進特区の反省から、木材の分離発注だけでなく、林業まで視野に入れた木材流通の必要性を痛感した。幸い、私が山形県鶴岡市の森林組合に加入していることから、より現実的に実施できるであろうと鶴岡市に働きかけ、行政と森林組合の強い支援体制で提案した。

概要は、公共施設の地域産木材が、その自治体の施策として位置付けられていれば、現行制度の地方自治法の随意契約の要件でできるという提案が認められた。近年随意契約は問題があるとして縮小傾向にあるが、要件の拡大が認められたことは、大きな成果である。森林組合、林家、行政と一体になって森林所有者が主体となった木材流通を構築することが、今、求められている。



4.これまでの成果


4−1 分離発注による地域産材の活用

木材の分離発注は、業者、ユーザー共に戸惑うことなく実施できるレベルまで達した。現在はさらに森林に利益の還元ができるシステムの構築に向かって活動している。

平成18年、県内の木材関係者と建築関係者が集まり、有限責任事業組合(LLP)秋田スギ夢工房が設立され、木材生産ゾーンと建築生産ゾーンが同一組織となり活動を開始した。目的は木材の流通を見直し、削減分は林家に還元し、林家の安定経営と自立、そして森林再生を目指す。昨年、1棟実験的に行ったが、今年からは木材コーディネーター育成も視野に入れて本格的に行う予定である。


4−2 地域の専門業者の自立

これまでの一括発注は、専門業者が社会的にも経済的にも正当な評価がされず、後継者が育たず、事業の廃止に追い込まれている実態を数多く見てきた。

しかし、CM方式を導入してからは、工種ごとに分離発注し、施主と直接契約し、顔の見える仕事ができ、仕事に対する責任感も強くなった。ネットワークの活動も、最近は二世の若い後継者が積極的に参加するようになり、着実に育ってきた。


4−3 ユーザーに対する啓発活動

「秋田杉で街づくり」ネットワークは、森からの家づくりをテーマにこれまでセミナーや森林体験事業など、広く市民に参加を呼びかけ、家を作るなら秋田スギで、と提案をしてきた。

現在は参加者も定着し、我々のサポーターとなって活動を支援してくれるようになった。当然ながらサポーターの家づくりも我々が関わり、お互いに支えあう組織になりつつある。市民生協との連携も深まり、今まで定期的なネットワークの会誌を発行し、住まいや秋田スギのPRなど、情報を提供し地産地消の大切さを訴えている。






5.今後の取り組みについて


これまで森からの家づくりを目指して、一貫して木材に関わってきた。しかし、どれほど森林に還元され森林再生に寄与したかは疑問である。近年、温暖化対策など環境面での森林への関心が高くなる一方で、森林の荒廃が進行し、森林整備が緊急の課題となっている。その最大の要因は、立木価格の低迷による林家の森林離れによると思われる。それまで、林家は木材の流通には関心を示さず自己変革を怠り、結果として流通の皺寄せを一身に受け、採算性のない林業となった。

今、森林の再生が叫ばれている折、林業再生のチャンスでもある。川上の林業から川下のユーザーまで全体をコーディネートできる木材コーディネーターの育成が、今後の取り組みの課題となる。