CM市場の拡大に対応 第三者性確保へ専門会社を設立
〜小野建築研究所 小野泰太郎代表に聞く〜
秋田県六郷町の福祉施設などでCM(コンストラクション・マネジメント)業務を手掛けてきた小野建築研究所は、10月中旬にもCM専門会社「小野コンストラクション・マネジメント総合研究所」(略称・小野CM総研)を立ち上げる。拡大が見込まれるCM市場に的確に対応するとともにCM専門会社を別会社として運用し、設計・監理業務とCM業務の主体を分離することで、CMの第三者性を担保するのが狙い。このため新会社への出資比率は25%に抑え、残りは投資事業組合などから出資を募る。東北唯一の暫定CMr(コンストラクション・マネジャー)資格者でもあり、積極的にCM業務に取組む小野代表に、新会社設置の狙いやCMに対する考え方などを聞いた。
◇ 地元企業にチャンス与え地域活性化
「西部工業団地のコールセンターなどの民間事業に加え、六郷町の障害福祉施設や二ツ井町の総合体育館といった公共事業でもCMを手掛けてきた。福祉施設は既に完成し、総合体育館は10月下旬にも工事発注される見通しだ」
「二ツ井町の総合体育館では27工種に分けて指名基準を作成し、町の指名委員会に提案した。27工種の中には、これまで公共事業への参画の機会がなかった企業もある。公共事業に参画できるビジネスチャンスを地元企業に与え、地域を活性化できるのもCMのメリットだ。公共事業には、ものを作るだけでなく、経済の波及効果をどうすれば引き出せるかを考える側面もある」
「専門工事業者は、技術を磨きプライドを持って仕事をしている。自尊心を認め、CMによって直接発注することが必要だ。ピュアCM(注1)を導入し、分離発注で発注者と直接契約して仕事をすれば、専門工事業者は元請けにもなれるし、価格も透明になり、『やってよかった』と思うはずだ。これまで数ヶ月先の手形払いだった工事代金も、完成した翌月には現金で支払われる。ゼネコン活用型(注2)のCMもあるが、現在の状況では、結局、様々なしわ寄せが専門工事業者に行くことになり、『利用されているのでは』という疑念が専門工事業者に生じるのではないか」
◇ 社外委員会も設け運営上の意見聞く
「これまでCM事業において、CM業務と設計・監理業務の両方を小野建築研究所で受けてきたが、新たにCMに特化した小野CM総研を設立し、設計・監理業務とCM業務の主体を分離することでCMの第三者性を担保する。100%子会社にするのは簡単だが、企業の第三者性が怪しくなるので、2000万円の資本金のうち当社の出資は25%にとどめ、50%は投資事業組合に出資してもらう。残りは土木コンサルタントなどに出資を求める考えだ。現在の様々な状況から社長は当面、私が兼務するが、それぞれ別の代表取締役を置き、新会社の開設者は別にする。また、社会的な第三者性を確保するため、弁護士や公認会計士、司法書士らで構成する社外委員会も設け、取締役会とは違った立場で企業運営上の意見を聞く」
「小野建築研究所の(CM部門であった)建築マネージメント事業部は廃止し、CMに関しては小野CM総研が動くことになる。だが、当面は小野CM総研でCM事業を受け、小野建築研究所で設計を進めた方が、間違いがないと考えている。CMでは細かな分離発注を前提に、施工図に近い精度の高い図面を書く必要がある。設計段階から作業の仕方や工種分けを明確にしなければならず、積算から設計、施工管理まで、トータルで建築を理解していなければCMの仕事はできない」
「また、CMを成立させるには、発注者との信頼関係も重要だ。ビジネスオンリーではなく、社会的活動を通した地域との連帯感が必要になる。私もこれまで、特区構想を提案した『秋田スギの利用を考える会』や、組合方式で集合住宅を建設・普及させる『コーポラティブハウス推進協議会』などの社会活動を展開してきた。社会活動を通じ、社会に認知してもらうことが重要だ。このような理由から当面は社長を兼務するのだが、顧客にとってはCMか、(従来のゼネコン)一括発注かを選択できるメリットもある」
◇ 町村合併を背景にCM市場は拡大へ
「CM市場は町村合併を背景に拡大すると見ている。これまでの小さな行政区域では、町や市と住民が一体であったが、行政区域が大きくなればしがらみがなくなる。行政批判がしやすくなり、公共事業への見方が厳しくなれば、行政の説明責任が問われる。きちんと住民に説明する必要があるが、自治体も対応しきれず、構想段階から第三者的にマネジメントを行うCMのニーズが高まってくるはずだ」
「日本にCMを根付かせるには、納税者から『あの人がやるなら』と思われる信頼感が大事だ。あせらず実績を積み重ね、CMrの社会的信頼を高める必要がある」。
・ピュアCM(注1)
発注者と専門工事業者が直接契約し、CM会社がマネジメントを担う。米国で一般的なCM方式。
・ゼネコン活用型CM(注2)
発注者とゼネコンが一括請負契約を結び、細分化した工種ごとに専門工事業者を選定する方式。専門工事業者はゼネコンと契約する。CM会社は、専門工事会社の選定やコスト管理などのマネジメントを行うが、リスクをゼネコンが負担するのが特徴。
|