フロント・インタビュー
「CM事業をやることの前提は、地域の木材住宅生産ネットワークを知悉していることが条件です。」
−コンストラクションマネジメント(略称CM)が注目されていますが、小野さんは木造住宅分野で、着実にそのメリットと問題点を明確にした実践をなさっているわけですが、CM事業はいつ頃から始められたんですか。
平成9年からです。ちょうどバブルがはじけた頃、建設業界の今抱えている問題は何か、ということの勉強会を始めたんです。地域経済を支えていくためにも、住宅建設需要は非常に大きなウエイトを占めています。しかし、市場の状況を見ていると秋田県でも、ハウスメーカーシェアが結構高くなりつつあり、年々地域の職人さんが下請け、孫請けになっていく状況にあります。ですから、住宅が建っているわりには報われている者は少ない。その辺を根本的に変えていかなくてはいけない、ということから勉強会を始め「では外国はどうなっているんだ」というところから入っていったわけです。
いろいろな方から、私のところに主に設計事務所から「CMをやりたい。ノウハウを提供してください」とインターネットを通じてきます。私はノウハウを提供してもかまいませんが、でもその前にやることがありますよ、と言っています。
地域の住宅づくりの中で自分の役割は何か、現場を支えている人たちから、自分は本当に信用されているのか、ということです。いくらビジネスでも、専門業者から本当に信頼されないとやっていけません。そうでないと、結果としてCMをやって普通の工務店や建設会社よりもコスト高になってしまうこともあります。
ですから「あなたを本当に信用する人が何人いるのか」と。そこからやっていかないと怪我をしますよ。怪我をするというのは商売にならないということです。
また、発注者(施主)からの信頼は絶対的に必要です。マネジメントするというのは、あくまでも発注者の立場にたつことです。ポジションとしては発注者の利益を守っているわけです。だから委託契約なんです。
−お客さんにはCM方式でやってますよ、と説明されるわけですか。
お客さんに対しては「うちでは今こういうことを勉強して、こういう方式で家づくりをやることができますよ」と選択を求めます。「私は従来どおりの住宅建設会社でやってもらいたい」とおっしゃれば従来どおりで強制はしていません。うちの事務所としては一括発注と分離発注をどう選択するかは施主である発注者に選択してもらっています。でもCMの方が圧倒的に多いですね。現在のCMの実績ですが、年間10軒くらいやっています。
ただ、CMにも一括発注にもリスクはあります。一括発注では建設業者の破綻のリスクが大きいです。現実に秋田でも結構大きな住宅会社が去年の暮れに倒産しました。そうしますと、結果的に工事完成後のメンテナンスは誰がどのようにやるのか。
CMの場合は専門業者を選択しますから、いい業者を選べるわけです。専門業者というのは、意外と力が強くて、彼等は技術を持っていますからそう簡単にはつぶれません。付加価値の高い仕事ができますから、その分だけ強いということですよね。
専門業者でつぶれているのは、どちらからというと仲介的業者です。技術を持っていない、自分のところで仕事だけを取って、やれる人に頼む、という専門業者はつぶれています。本当に力のある専門業者はつぶれていないです。
−業者の力や技術水準を知らないでコストだけで選定することは危険ですね。
インターネットで業者を決めている事務所があります。よくそれでやれるなと思いますね。インターネットで専門業者を選択しても、工事間の隙間を誰が見るのかということです。建築の場合は必ず隙間がありますから。そしてその隙間を埋めるのは信頼関係なんです。我々がCMをやっていて、どんなに隙間がないように設計していても、やはり出ます。それをインターネットでコストで選定した場合には誰もやりませんよ。「うちの方の見積もりには入っていません」とそれで終わりますよ。ですから、様々なトラブルが発生するわけです。これでは施主のリスクが高過ぎますね。
ですから、前提は、どれだけ地域の生産ネットワークに日頃から事務所がコミットメントしているのか、どうかということです。それが基本でなければ意味がないのです。
−林家との家づくりの仕組みもお考えだそうですね。
今、「秋田杉まちづくりネットワーク」というのを立ち上げているんですよ。私も本業ではないのですが、林業をやっていまして、現実に林業がダメな理由というのを私なりに調べたんです。結論的には流通コストの負荷を回避すれば林業は成り立つ。林家が直接的な関与をしていくと、年2〜3戸分の材供給で、そんなに無理しなくても皆が生活できるんですよ。
大手住宅メーカーのある会社が、結果として今、6000億円もの負債を抱えて苦しんでいます。やはり住宅というのは、大工さんでも左官屋さんでも建具屋さんでも畳屋さんでも、地域の人たちが、地域の材料を使って、地域の家をつくって生活している、という形がたくさんあればいいわけです。それが住宅産業の担い手であるべきなんです。大きくなるということは必ずしもベストではないですよね。
私の考え方でもそうなんですが、実は住宅は数でやるものではないと思っています。
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