建設総合情報誌 東北ジャーナル 1999年10月掲載


コストダウンの新たな旗手・建設CM事業の最新事情
秋田・小野建築研究所によるCM住宅を中心に15件実施

 秋田県では、設計事務所が専門工事業者の後継者問題からその解決に向けてCM事業をスタートし、昨夏の事業開始から一年余りで住宅を中心に15件の建物を手がけるなど注目を集めている。

 このCMを実施しているのは秋田市旭北錦町に事務所を構える小野建築研究所。所長の小野泰太郎氏は建設会社に勤めた後、ハウスメーカーの設計課長を経て、昭和52年に小野建築研究所を設立、公共建築のコンペにも多数入選するなど実力を持った設計事務所だ。小野所長は事務所開設の当初から専門工事業者などを集めた勉強会を開いてきたが、その中で、近年、職人の高齢化や若年者の入職の激減が大きな課題として指摘されるようになってきた。

 「現在、技能者の年齢構成を見ると40代が45%、30代が20数%、20代に至ってはわずか2%というありさまで、このままでは職人がいなくなり建物を建てられない時代がきてしまいます。この原因はどこにあるのか勉強会で討議する中で分かったことは、日本の発注システムに問題があるということです。職人は自分の仕事に誇りがあり、いい仕事をした時には施主から評価されたい。しかし、下請、孫請となると施主の顔さえ分からずに仕事をしているというのが現状で、評価もなく、これでは仕事にやりがいをもてません。かといって経済的に潤っているかといえば、元請からたたかれ汲々としている。これでは若手の職人が激減しても当たり前です。CM方式を導入し、専門工事業者が分離発注方式で施主と直接契約で工事を請け負うようになれば、仕事への責任感や励みが生まれ、また、経営的にも現金取引きで改善が図れる。そうすれば技能者の後継者問題も解決するし、施主にとっても安価に良質の建物を得られる。そうした思いがあって今回CM事業を立ち上げたわけです」と小野所長はCM導入の経緯を話す。

 同設計事務所ではCMの実施に先立ち、平成9年より一年間、専門業者約20社を集めて見積の方法をはじめ工程管理、VE・品質管理、保険・労災などについて勉強し、CMのシステムについて理解を深めていった。同設計事務所のCM方式も施主と専門工事業者が直接契約を結ぶピュアCM。もともとが設計事務所であることからマネージメント契約を済ませると自前で基本設計に着手。平面、立面、断面計画をはじめ設備計画、ここで構造、設備、建具といった主要工種の業者選定を行う。その後、これらの業者を加えてVE提案なども受けながら実施設計(施工図)の作成を進め、設計完了後、内装やその他の専門工事業者を集めて説明会を開き、各社から見積もりを提出してもらい比較検討。各工種とも原則、最低金額提示業者と交渉を行い施工金額を決定する。全工種の施工業者が決まったところで契約調印式を行い、着工、上棟、完成、引渡しとなる。

 業者選定に際しては、コストダウンを図るため各工種とも三社以上から見積もりを提出させるほか、これらの見積もり金額は施主に対して全てオープンとし、工事費の透明化とともに施工業者の値引きの努力が施主に分かるようにした。また、同CMでは、施工業者がプライドを持った工事を行い、それに対して施主から直に評価を得られるよう、施主と施工者の顔の見える施工体制づくり≠ノも努めており、契約調印式をはじめ上棟式、竣工式などは全員参加とするなど、施主と施工業者の緊密なコミュニケーションを図っているのも特徴の一つだ。

 CMを導入して第一号の住宅を建設した秋田市の玉山勝也氏は「ハウスメーカーの家はデザインが画一的で、品質面でも原価がいくらの資材が使われているのか分からない。コストも不透明と納得いかないものでしたが、CMを用いた今回の方法は自分の考えが建物に反映でき、しかもコストを三分の二以下にすることができるなど大変満足してます。各専門工事業者との契約など多少手間はかかりますが、自分の理想の家を建てたいという人には最適な方法です」と感想を述べる。

 一方、専門工事業者も「金銭的には下請けの場合とそう変わりなく厳しいですが、お客様が値引きを感謝してくれますし、お客様や設計事務所と直接、話ができることでVE提案など専門工事業者としてのノウハウも発揮できます。現金決済も経営的にもうれしい方法ですし、直接契約なので将来的な改修計画をお客様に提案できるなど、ビジネスチャンスも広がります」とCMのメリットを挙げる。

 三割以上のコスト削減を図る方法としてCM事業が一般紙やテレビなどに取り上げられたこともあって、同設計事務所ではCM事業の依頼が殺到。住宅のみならず企業からもビル建設・改修の問い合わせが数多く寄せられており、同事務所ではこうしたCM事業の需要増に対応して近年中にもマネージメント会社を分離独立するなどCM事業のさらなる普及拡大を目指している。