10月の森は快適だ。蚊や蜂にやられる心配もない。ヘビは山の気温が下がり、おそらく里に下りたか、地中にもぐり、冬眠に入っているのだろう。まず目にすることはない。

 今年の秋田県内では連日、熊による被害が起きている。しかし、私の家の所有する山形県鶴岡市の山林には、昔から熊が出没した話は聞いたことがない。まずいないだろう。それでも、ひとりで山の作業を行うときは、無意識のうちに、自分の存在を山の生き物たちに知らしめるかのごとく、声を出したり、鳴り物いりで作業にとりかかる。これはまさに、動物の本性がそうさせているのだろう。人間も自然の中に入ると、野生を証明させられる。


 木のあいだから海がみえる
 おそらく数多く生息しているタヌキなどは、そっと潜んで私を眺めていると思われる。啄木鳥は、逃げることなく、一生懸命、くちばしで木を突ついている。森の生き物にしてみれば、新参者である私などさほど気にならないようである。近年自然環境の保護が盛んに叫ばれているが、森に対して謙虚に接することが、森林の営みの多様性が発見され豊かさを実感できる。自然との共生は、まず山に入り、自然の悠久の大きさを知り、己の存在の小ささを知るべきであろう。

 最近、友人から森のコラムが更新されていないとよくいわれるが、実は夏は山に入らないようにしている。理由は、蚊や蜂などの活動が活発で、私の入る余地などないのである。だから真夏と真冬はお休み。従って書く材料がない。

 今は気候も良く、背丈ほどの雑木や雑草を切り払い、来春の植林の準備作業が中心である。面積は、2〜3反歩(600〜900坪)であるが、急斜面なのでなかなか大変だ。あと一日ほどで終了するだろう。目安はついた。振り払うごとく鎌で一振りするたびに前に進む。後は己との戦いだ。無心に雑木や雑草を切り倒し、ぐっしょりと流す汗は気持ちが良い。普段、汗を流すことなく、神経をすり減らすことが多い生活から、自然のなかで体力を使い切ることは何よりものストレス解消になる。


 来年植林予定
 高度に発達した情報化社会は、経済のグローバル化を生み、イノベーション(技術革新)による新規産業の創出が可能になる。得に資源の少ない日本は知的財産の蓄積が不可欠の条件だ。

 しかし忘れてはならないのは、一次産業の衰退は国を滅ぼす。食料の自給率を見ても、先進国の中では最低である。非常時にはどうなることか。また森林国日本は、世界で最大の木材消費国でもありながら、商業ベースで輸入に頼っている。環境保護の視点から、木材の輸入が制限されたとき、日本の森林は需要に対応できる森林が存在するであろうか、疑問である。

 農業は消費者に目を向けて、産直農業が盛んとなり自立可能となった。林業も当然、消費者に目を向けて、自立する林業を構築せねばならない。


 精魂尽きた…
 現実は山に入り、汗にまみれて、疲れた体に鞭を打ちながらの作業は“業”としての不条理さを感ずる反面、自然の豊かさを我が掌中にすることで何にも勝る充足感が得られる。不条理さとの苦悶と充足感は、まさに相反関係にあり、このバランスを保ち続けることが問題意識を高める。不在林家が増えている昨今、まず自ら汗を流すことによってさまざまな問題の解決の糸口を見出し、自立への知恵が生まれる。

 つまり、汗を流すことは単にストレス解消だけでなく、知恵を生み出す原動力でもあるのです。

 先人が営々と築いた山林を、我々の代では不可能かも知れないが、後の世代で持続的に管理できる林業を作りたいものだ。

2001.11.6