まず、建設産業の現況です。

 地方の建設業は、やはり公共事業に非常に頼っています。経済そのものが公共事業依存の傾向ですが、この公共事業が大幅に削減され、国のほうで10.7%削減されました。建築の場合では、国が10%削減するとなると、県・市町村段階で大体半分、20%ぐらいの削減となり、非常に大きな削減率となっています。このような状況で、特に下請の皆さんが、果たしてこのままやっていけるのか非常に大きな不安を抱えているのが実情だと考えます。

 もう1つ、毎日のようにゼネコンの再編とか統合とか淘汰などの話題が出ていますが、われわれから見ますと、建設業でどうも悪いもの同士が再編しているように見えてしまいます。普通の企業合併というと、吸収合併という形が一般的ですけれども、悪いもの同士が一緒になっていて、果たしてこんな業界で良いのかと、また下請の皆さんの大きな不安の要因になっているのはないかと考えます。

 また、建設業の特性とも言うべきですが、地方のゼネコンにおいても例外なく、建設業界は先取りの経済をやってきているではないかということがあります。ずっと成長しつづけてきたこの業界は、一般的に手形決済が行われています。半年後、1年後を想定して手形を切るわけです。そんな先取り経済の体系にあって、これだけ景気が冷え込むと、決済日に本当に手形が決済されるのかという不安がつきまといます。

 秋田県の場合、昨年の暮れ、大手の住宅会社が突然倒産しましたし、いま現在も、県内Aクラスの業者で、感覚的にどうも危ないのでないかと受け取られている会社が非常に多くあります。年間120億円クラスの地方のゼネコンでも、すでに希望退職者を募ってリストラをはじめて企業としての努力をしている中での景気冷え込みなのです。こうした比較的大手ばかりではなく、建設産業を実際に支えている、非常にすそ野の広い専門業者、こういう人たちが不安なく仕事ができる環境というのが一番健全であるはずですが、いまの状況ではまったく希望が持てないというのが、地方の建設業界の現状ではないかと思っています。

 こうした状況をさらに深刻にしているのは、戦後の日本経済の大きな問題でもある、元請と下請、孫請という重層的な構造にあります。景気のいいときは非常に効率よく利益配分がされ、下までどんどん浸透して、公共事業が非常に効果的に経済の発展に寄与してきたわけですが、今日のように不況になると、公共事業の削減と連なるように民間工事も事業量が減って、結果、過当競争を招き、たたき合いをするということになります。恐らく仙台市あたりでのマンション建物では、坪30万円台、平米十何万円という値段で仕事をしていると思います。

 こういう冷え込んだ状況の中でいくら公共事業を進めても、民間工事の単価がそのままスライドされるという慣例から、結果的にすそ野の広い建設産業というのは良くはならないのではないかと思います。大きなメカニズムとしてのいまの業界の構造そのものに、大きな問題が内在しているのではないかと思っています。
 それから、他の業界にも言えることですが、横並び体質というものも阻害している要因ではないかと思います。

 戦前、恐らく地方自治体においても経営というのがあり、建築も全部分離発注だったと思います。それが戦後、荒廃した国土再建で、一挙に公共事業が膨れ上がり、とても分離発注ではやり切れなくなり、一括発注という方法が生まれたと考えます。しかし、一括方式で特定の業者が仕事を独占するというのは、戦後の経済においては非常に不都合なのです。望むべくは、効率よく、全般的に平均的に仕事が行き渡ることが一番いいわけです。

 そこで、お互いに話し合いで仕事を全部調整していくようになったのではと想像しています。話し合い調整することで、均等に経済が進んでいくはずだったのですが、そうはならなかったのであり、また今日の経済・社会状況は話し合い調整の体質を許さないのです。

 それは、成熟した社会でありながら、今日このように経済が非常に厳しくなると、個人の家計に占める社会保障関係、厚生年金などの比率が増大して、必然的に税金の使われ方に対して厳しい見方が出てきたからです。

 こうした大状況が、業界そのものが旧来の体質を変えていくことを求めているのではないかと考えますが、その方策はどのようなものなのか、これも大きな問題だろうと思います。

 また、地方の建設業を含めて、主要な大手のゼネコンなどが、高度成長期に非常に多額の不良債務を抱えた問題もあります。たとえば、M社でさえも6000億円ぐらいの不良債務を抱えています。こうした業界上層の状況の中で、下請の多くは100%専門業者で仕事をしていますから、一度上層で何かが起これば、専門業者の破産や廃業、他産業へのシフトなどへと発展することが考えられます。このようなことで建設業は本当にやっていけるのかどうか、非常に不安な中にあるということです。